第20回音声学セミナー 「(音声)言語進化学への招待:その方法と最新の知見」

2011年10月20日
日時: 2011年12月3日(土)13時~17時
テーマ: (音声)言語進化学への招待:その方法と最新の知見
講師: 田中伸一(東京大学准教授)
岡ノ谷一夫(東京大学教授)
池内正幸(津田塾大学教授)
長谷川眞理子(総合研究大学院大学教授)
内容:  「言語の起源と進化」という問題は,真新しいテーマではない。しかし,何百万年もの時代を経た過去事象ゆえの実証性の難しさ,人間の膨大な認知能力を介した複合事象ゆえの学際的連携の難しさなどがあり,一筋縄ではいかない難問であると認識されてきた。科学的アプローチの難しさだけでなく宗教的なタブーも加わり,まさに「触らぬ神に祟りなし」で,手つかずの歴史を免れなかったのである。ならば,なぜいま,「(音声)言語の進化学」を問うのか。
1つの理由として,ここ数十年における言語研究や言語理論の成熟や,現代統合進化論の進展により,そろそろ機が熟してきたという共通理解が芽生えてきたことがある。特にこの10年には「生物言語学」「進化言語学」という分野が確立されつつあり,この分野に特化した学会設立・学術誌刊行があったほか,シンポジウムや雑誌特集や単行本も目覚ましい勢いで見られる。この3月には,国際学会(Evolang 9)が京都にて開催される運びともなった。しかし,難問であることには変わりない。
そこで,このセミナーでは(音声)言語に関心のある研究者や学生を対象として,4人の講師にそれぞれの立場から,このテーマについての背景と最新の研究成果をわかりやすく講じてもらう。いきなり専門研究に分け入ってゆくのではなく,このテーマへの取っ掛かりとして,いわば橋渡しの役割を果たすことを目的とする。講師の背景は言語学・神経科学・認知科学・動物行動学・進化学などと多様であるが,大きく分ければ「現代言語学から見た人間言語の起源や進化」と「現代統合進化論から見たヒト言語の特徴と位置づけ」という2つの観点から,テーマを追うことになると思われる。セミナー全体としては,1)どのようなアプローチで何がわかってきたのか,2)どのような問題が立ちはだかり,何が未解決のままなのか,3)今後の展望として何が期待できるのか,などを問いつつ浮き彫りにしてゆきたい。(以下に講演要旨が掲載されています。)
会場: 東京大学駒場Iキャンパス
21 KOMCEE (21 Komaba Center for Educational Excellence)*
地下1階レクチャーホール
*駒場東大前駅の東口を出て,正門から奥へ進んで右方向(北北東)に位置する,新しい5階建ての建物です。以下をご覧ください。
   http://www.c.u-tokyo.ac.jp/access/
   http://www.komcee.c.u-tokyo.ac.jp/access
参加費: 1,500円
定員: 120名
申込締切: 2011年11月25日(金)
※ただし定員に達し次第、申込を打ち切りますのでご了承ください。
事前申込み方法: メールで psj.planning@gmail.com にお申し込みください。
件名(Subject)に「第20回音声学セミナー参加申込」と記入し、メール本文に以下の項目を4行に改行して記入してください。 メール本文には以下の項目をお書きください。
  1. 氏名とよみ (例:山田太郎 やまだたろう)
  2. 所属・職名または大学・学部・学年・専攻
  3. 連絡先(メールアドレスと電話番号)
  4. 会員・非会員の別
参加希望者は必ず個人としてお申込みください。「他○名」のような申込みは代表者を含めて受けつけません。申込メールのヘッダーに指定されている返信用アドレス(return to)に確認のメールを返信しますので、1週間以上返信メールが届かない場合は企画委員長 kikuo@ninjal.ac.jp までお問い合わせ下さい。いただいた氏名・所属の情報は音声学セミナーの運営のためにだけ利用するものです。

講演要旨

「最適性理論から見た言語の発生・適応」
田中伸一(東京大学准教授)
本発表では,言語の起源や進化について異種業種間で持ち上がるさまざまな論点を紹介しながら,特に言語の最基層を構成する音韻について,1)何が問題となるのか,1)どのような適応・発生の原則があるのか,2)系統発生と個体発生との間にどのような関係があるのか,をテーマとして扱う。その際,生物進化と比較しながら,言語進化を説明するモデルとして,認知科学を起源とする最適性理論が有効である根拠を紹介し,音韻論の他のモデルより優れた点を立証する。

「音列と文脈の相互分節化にもとづく言語起源」
岡ノ谷一夫(東京大学教授)
言語は人間に特有な機能であることには異論はないが,言語を生物学的に扱おうとすると,動物と人間に共通するいくつかの形質の相互作用から言語が発現したと仮定する必要がある。新たな発声パタンを学習する機能,連続音声を分節化して学習する機能,行動文脈を分節化する機能が,言語の発生にとって基盤となる機能であると考え,行動文脈と音列が相互に分節化されることが言語の起源であるとの仮説を紹介する。

「現代進化生成言語学の最近の学際的トピックス」
池内正幸(津田塾大学教授)
本発表では,まず,進化論,二段階進化仮説などの必要な基本的(前提)事項の導入を行う。その後、Hauser et al. (2002)以降話題となっている(FLNの)回帰の問題を取り上げる。学際的な事柄にも言及しながら,最近の議論を考慮しつつ,一定の方向性を探る。次に,最近の考古学的証拠が,ヒトのことばの起源・進化仮説にどのように直接的に関わるかについて,具体的事実を挙げながら検討し,新しい帰結について考察する。

「言語を可能にしたヒトの進化」
長谷川眞理子(総合研究大学院大学教授)
言語能力は,ヒトであれば誰もが備えている生物学的機能であり,私たちにもっとも近縁な動物であるチンパンジーにはない。しかし,言語は複雑なシステムであり,言語を話して理解することには多くの異なる能力がかかわっている。どのような遺伝子の変化が言語能力の獲得に寄与したかは,一見,言語とは関係のないように見えるものかもしれない。さらに,言語を可能にした進化プロセスを知るには,そのような遺伝子上の変化が適応的に有利となる状況は,ヒトの進化の中でいつ,どのようにして起きたのかも考慮せねばならない。